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INTERVIEW / “風の谷”に込めた覚悟と希望――Khamai Leonが切り拓くポップスの地平

  • 執筆者の写真: leon khamai
    leon khamai
  • 5月12日
  • 読了時間: 9分

更新日:5月14日



―2ndアルバム『IHATOV』以降の1年は、レーベルからの独立、『ONE PARK FESTIVAL』など大型フェスへの出演もあり、Khamai Leonにとっては環境もモードも変化の大きい1年だったと思います。最新EP『風の谷』は、そういった中で「Khamai Leonにしかできないポップス、ロックとは何か」をいろんな方面からトライした6曲が収録されていると感じました。実際、この1年はどういったことを考えて、どういうEPになったと感じていますか?


尾崎勇太(Vo,Flute):1stアルバム『hymn』はオルタナティブな性質が尖っていた作品で、そこから自分たちの矢印がポップスに向いたのが2ndアルバム『IHATOV』だったと思うんです。その姿勢を引き続き示すものを作ったのが、この1年だったと思います。『IHATOV』を出して、やっとポップスのフィールドでやっているバンドと肩を並べられるようになったと感じたんですよ。その世界の中で自分たちはどう魅せるのかを考えるようになって、ポップネスもありつつ独自性をどう昇華させるのかということに向き合った1年でした。


beja(Key,Gt):「Khamai Leonのまま、たくさんの人に聴いてほしい、伝えたい」という気持ちが、今作の一番のキーポイントかなと思います。「Khamai Leon」という名前ですけど、自分たちは本当にカメレオンだなと思うときがあって。それはどういうときかと言うと――「よりポップネスを意識しよう」となって、メンバー全員がいろんな音楽を食べたんですね。普段聴かない音楽もあえて聴いたし、好きな音楽をまた聴き返したり、昔の曲も、今実際に聴かれている音楽も、より意識的に聴きました。そこから要素分解して、たとえば昔の音源と今流行ってる音源を比べて、ドラムやベースがどういうふうに鳴っているか、どこが共通しているのか、ということをみんなですごく考えた1年でした。今回のEPに入っている6曲は、それぞれで違うことを意識した結果だと僕は考えているんですけど、どれもアウトプットしたときにちゃんとKhamai Leonのカラーになるという自負が生まれて、それが自信につながったなと思います。





―これまでは作曲の名義にそれぞれの名前が書かれていましたけど、今作はすべて「作曲:Khamai Leon」になっていますよね。具体的に作り方も変えたんですか?


beja:作曲の名義が全部「Khamai Leon」になっているのは、全部をひとりで書き切った曲がひとつもないからなんです。前作『IHATOV』はそれぞれが曲を書くスタンスだったのが、今回のEPに入っている“予感”以降は、Khamai Leonというバンドがどういう音楽をやったらいいのかを全員で考えるタームに変わったんですね。それぞれの作曲家としてのカラーが出ている曲が1枚のアルバムに入るのも面白いですけど、それを1曲でできたほうがバンドとしてはかっこいいんじゃないかということを、『IHATOV』のツアーが終わったあたりで話した記憶があります。今作はより複合的で多角的な視点からKhamai Leonの曲を見つめたことによって、より多くの人に食べてもらえるものになったんじゃないかなと思います。


尾崎:“meteor”から作曲工程が変わりましたね。“meteor”は4人で話し合ってラリーを繰り返して作った曲で。サビのコード進行は今J-POPで使われているものを使っていたり、いい意味で今っぽいことを意識したというか。


赤瀬楓雅(Dr):“meteor”は3つくらいの原案が合体したような曲で。僕は客観的に聴いて「Khamai Leonっぽいな」と思っていたんですけど、尾崎は「どんな反応がくるんだろう」って不安そうだったよね。


米光椋(Ba):でも実際は新しい人たちが反応してくれてよかったよね。ライブでもすごく盛り上がるし。


尾崎:「今までにない感じ」というふうにウケている感想もあったし、“meteor”以降、新しい属性のフォロワーも増えてよかったなと思います。



―「よりポップネスを意識しよう」という姿勢からいろんなチャレンジをして、それに対して手応えも結果もついてきたということですよね。Khamai Leonがポップさを意識したときに、特に変えたのは具体的にどういった要素でしたか?


尾崎:この中で最初にリリースした“予感”は、『IHATOV』を出す前にはデモができていたんですけど作り直したんですよ。そのときに大きく変えたのは、自分の声をバンドの中で一番前に置くこと。今までは「声も楽器のひとつ」みたいな感じだったんですけど、日本で音楽をやっていくにはやっぱりボーカルが一番大事だと思って、僕自身が「ボーカルがうちの看板商品なんですって言うぞ」というマインドになれたんです。


beja:結局それが一番デカいと思います。前作と聴き比べていただいたら一番顕著なのはそこだと思うんですよ。コード進行、和音の積み方とかを変えたのも、すべてはボーカルのためと言えるくらい。……彼(尾崎)はすごくて。この1年、夜中に頭をベッドに叩きつけたくなるような壮絶な戦いが彼にはあっただろうなっていうのが想像に容易い。僕らはインストバンドから始まって、『hymn』の2年間の創作期間で彼はラップを体得し、『IHATOV』では歌とラップのあいだをシームレスに行き交って声を楽器のひとつのように扱っていたんですけど、彼自身が「それを許さない」というふうになっていったんですよね。『ONE PARK FESTIVAL』で観たサカナクションとか、大きなステージに立っている人たちの演奏を聴くと、やっぱり歌唱に向き合わないと行くことができない領域があるということはもう目に見えているんですよ。いろんな音楽があるから、その選択をすることだけが正しいとは別に思わないんですけど、Khamai Leonというバンドは「たくさんの人に聴いてもらいたい」「Khamai Leonという名前を出したら、みんなが思い浮かべる曲があるようなバンドになりたい」という気持ちが明確に4人に共通してあるので、“予感”以降、彼の戦いが始まりました。僕が全部ミックスしているんですけど、本当に、彼の気迫みたいなものがすごいんですよ。……どうですか?


尾崎:……ちょっと泣いてます。Khamai Leonって、演奏が超上手いんですよ。ライブもすごいんです。作曲の能力もある。これ、俺のボーカルが強かったら絶対に売れるやんと思って。トップの人たちと比べたときに「ボーカルだな」ということを毎日思うから、そこと戦おうと思うようになりました。そうすると歌詞も変わって、今までは音楽を代弁するように作詞していたんですけど、今は自分の思ってることを歌詞にしたい、なんなら「俺の思ってる詩を演出しろ」くらいの気持ちに“セゾン”からはなれました。それ以降の“風の谷”、“放春花”も、そういったところが変わったと思います。



―EPタイトル曲の“風の谷”はまさに自分の想いを言葉にした、今のバンドの意思表明のような曲ですよね。


尾崎:そうですね。僕たちの人生は《荒れた路》なんですよ。今の世の中なんて先が見えないから、みんなそうだと思うんですけどね。それでも俺は行くんだ、新しい「風の谷」という場所を作るんだと言っている曲です。


beja:こんなにアコースティックギターを入れたのは“風の谷”が初めてじゃないかな。僕の個人的なテーマとしては「さすらい人」「吟遊詩人」で、ピアノはその場所に楽器がないと弾けないものだけどギターは旅人が持っていけるものだというイメージがあったので、アコギを中心に添えたいなと思っていました。周りの環境や圧力みたいなものを表現するためにエレキのノイズを入れたり、開けた世界の景色がふわって見えるようなところにはピアノを散らしたりして、願望や理想がちょっと見え隠れするアレンジになればいいなと思ってましたね。


赤瀬:この曲は「ロックサウンド」をやった印象ですね。象徴的な太鼓の音をイントロやアウトロで使っているんですけど、固い意志を持って進んでいく感じを、ロックという音楽と太鼓のリズムで表現できたんじゃないかなと思います。


―アルバムタイトルにもなっている「風の谷」という言葉には、どんな想いがありますか?


尾崎:一言で言えば、新しい文化が起こる予感がする場所。『風の谷のナウシカ』は、都会が高度に発展しすぎてテクノロジーが破綻して、そこに住めないから「風の谷」というところに移ったという話だと思うんです。あえて言語化するなら、「文化的に高度に発展した田舎」を自分たちの世界として作り上げている。あと、ビジネス書を書いていたりNewsPicksの番組に出ていたりする安宅和人さんがやっている「風の谷プロジェクト」(都市集中型の未来に対して、テクノロジーを用いて都市のオルタナティブを追求する試み)の考え方が僕はすごく好きで。メインストリームとは違う魅力的な場所を作りたいし、そこで悠々自適な生活をするのではなくギラついている感じが、今の僕らっぽいなと思ってタイトルにしました。



―「Khamai Leonにしかできないポップスの追求」でいうと、私としては“セゾン”が一番印象的でした。技術のある人がやる引き算って、すごく美しく感じるし、実は複雑なことをやるよりも技術の高さが見えたりするじゃないですか。そういう曲だなと思ったんです。これはどういう意識から作ったものでしたか?


尾崎:これはピアノでコードを弾きながら、《貴方は春の風》という歌詞とメロディが同時に出てきたんですよ。そのあとの展開はみんなで作っていったんですけど、サビは人生初の「降りてくる系」でした。その他の歌詞は、人との出会いや別れをいろんな角度から想像したり、自分の経験を振り返ってみて、赤裸々に書きましたね。



beja:今回の6曲の中で一番仕上がりが早かったのはこの曲なんです。みんなが世界観にスルッと入れた感じがして、全体的にスムーズだったんですよね。『IHATOV』の曲だと、エゴサーチすると「このバンド何人いるんだろう」「9人くらいいないと演奏できない」みたいなことを書かれていたりするんですけど、この曲は対極なことができたと思っていて、実際に「4人の演奏している姿が見える」と言っていただいていますね。




―今日話を聞いて、独立して自分たちですべてを考えて動かさなければならない環境になったことで、4人のバンド感がかなり深まったのだなという印象を受けました。5月からは東名阪にてリリースツアー『風の谷 - valley of wind -』があります。ライブには今どういった手応えがありますか?


beja:最近、ライブでみんなと演奏するのが本当に楽しいんです。前までは制作とライブを両方やるのは大変だなって思っていたんですけど、今は「ライブできる、やったー!」みたいな。この1年でより深くコミニケーションするようになって、互いの理解も深まったし、それによってライブの演奏も変わりましたね。


赤瀬:今までは演奏中も変に背負って「Khamai Leonというバンドのためにちゃんとやらなきゃ」みたいな意識があったけど、今はいい意味でそれがなくなって、「何をしてもKhamai Leonになる状態」に入った感じがします。4人それぞれにそういう感覚がある気がして、一緒にやっていて楽しいんですよ。



米光:自分がライブで表現することの全部がKhamai Leonになる感じは楽しいですね。昔は再現音楽寄りで、できあがっている曲をそのまま届ける感じだったけど、そうではなくなったよね。それぞれの演奏に対する信頼感も高まってきている気がします。


尾崎:もともと超仲良しなんですけど、独立以降、結束がより強くなって、今はグルーヴがめちゃくちゃいい感じですね。ここ最近ライブの感じが変わってきているので、去年ぶりに観る方にも大きな変化を感じてもらえると思います。それぞれのプレイもライブ感の強さがより出てバキバキに仕上がっているので、今まで以上に各々が際立つようになりました。これだけ素晴らしい4人が集まっていて、俺らが世界で一番だなって自分で本当に思っているので、デッカいところに行きたいですね。2020年代後半を象徴するバンドになるんだって本気で思っています。そうなるにはまだまだですけど、「いけんじゃね?」っていう予感をこのEPとライブから感じてもらえたらいいですね。




インタビュー・テキスト:矢島由佳子 写真:赤瀬楓雅 / 尾崎勇太

 
 
 

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